「だあれ?」
たった一言に息が止まった。
目を開けてもそこには闇があるばかりだ。
束の間アッシュは混乱する。ややあってそうだ夜だったと思い出して、呼吸が整っていく。
久しぶりに野営することになり夕食を取ってから眠りについたのだと現状把握につとめていけば、ここは馬車の荷台だと思いだして、むっくり身体を起こした。夕方くしゃみを連発したアッシュに、主人がそこで休めと告げたのだ。荷台には幌を張ってあるから、風が当たらず外で寝るより幾分か温かい。
アッシュはゆるく息を吐き出して、己の額に手を当てた。
寝る前、額を合わせてきたレイは「少し熱があるんじゃない」などと言ってきて、そうだろうかと首を傾げるアッシュを可哀想なものでも見るような目であった。
心外な。アッシュだってもう二十歳だ。子どもじゃない。体調管理ぐらいちゃんとできる。
現に手のひらに感じる熱は常と変わらない。
次第に闇に目が慣れてくると、ここに自分しかいないことに気付いた。
漠然とした焦燥に駆られ、アッシュは荷台から飛び出した。
焚き火に照らされた二つの顔が物音に反応してこちらを見ていた。寝起きで火照る身体がすっと冷める。
「どうした」
そう発したとき、主人は確かに素の顔を晒していた。だがそれも悪戯っぽい笑みに取って代わられてしまう。
「誰もいなくて淋しくなった? まだおまえの番じゃないぞ」
久しぶりに見た顔を頭の中で反芻しながら、アッシュは曖昧に頷いた。姉が、レイがなんとも言いがたい顔でこちらを見ている。追求してくれるなとアッシュはそちらを見ないようにした。
火の守りを、今日は交代ですることになっていた。レイはちょうどウィルと代わるところだったのだろう。
二人の主人は率先して寝ずの番をやりたがる。主人の意を汲んで時々は我が儘を通してやるが、基本は交代の形をとっている。主人に寝ずの番をされては従者である意味がない。そう言えば、ウィルは考え込むようにして「わかったよ」と承諾してくれた。
どうにもウィルは、主人とは従者を守るものだと思っている節がある。
その気持ちはありがたい。
だが、自ら危険に身を曝し、また投じる主人を従者が放っておけるはずもなく。
それでもウィルは「いいんだよ」と事も無げに言うのだ。それも笑って。
「大したことじゃどうせ死なないんだから」
自分が「アッシュ」になった日を彼はよく覚えている。
当時ウィルが暮らしていたのは「離れ」と呼ばれる狭い邸だった。かつて二の砦と呼ばれていたそこは、緑の生け垣に囲まれた小さな邸だ。生け垣の向こうに広大な本邸があるが、越えてはいけないと初日に忠告された。
双子にそう忠告したのはウィルのお目付役の男だ。
浅黒い肌をした青年で、右目に意匠を凝らした刺繍のある眼帯を当てていた。どうしてもそこに目がいきがちだが、繊細そうな造作の男だった。何年か経って双子は気付くが、彼は辺境領の主人のお手つきの一人でもあった。知る人間に言わせれば、辺境領主は顔に似合わず色狂いなのらしい。
立ち去った辺境領主の代わりに双子に諸々の説明をしたのもこの青年だ。
外で立ち話もどうかと、屋内に場所を移すことになった。
初対面でのウィルと今の見た目にそう大差はない。まったく成長しないわけではないが、彼の身体は同年代と比べれば遙かに小柄だ。
ウィルは部屋の中を所在なげに歩き回っていた。そこは狭い邸ながらも存在する、滅多に使われていない客間であった。お目付役は喉を潤すものを用意してまいります、と案内だけはして部屋には入らなかった。
ふう、と彼が息を吐く音が二人にはしっかり聞こえた。
手を繋いで立ちすくむ双子を二つの眼が捉える。
「そうだね、改めて自己紹介といこうか。それがいい。僕はね……ウィル。これから君らの主人になる。こんな見た目だけど、もう十七だから。いい主人になるよう努力するからよろしくお願いします。それで……きみたちの名前も教えてもらえるかな」
このとき彼が自分の名前を言いよどんだことに、緊張する双子はちっとも気付かなかった。
弟の方はまさかこんな機会がくるなど考えたこともなかったから、ちょっと困ったことになったと思った。すがるように姉の方を見る。
彼女は常々、自分の名前は弟のものでもあると言ってくれていた。その時はいつも物分かりよい弟のふりをして姉の言うとおりに頷いていたけれど、本心では「そうかな?」と納得してはいなかった。
姉のために存在しているだけの自分に名前なんかが必要だろうか。必要だったらとっくについているはずである。あれ、とか、それ、で事足りているならそれでいいのではないだろうか。
目を見る限り、姉の意思は変わっていないようだった。ならば彼女の思うように振る舞おう。
せーの、と心の声を合わせる。
「アシュレイ」
揃えられた二つ声。
十七というにはまだ幼さの残る主人の顔が曇りだす。
「どっちも、アシュレイなの……?」
「……ぼくのないから、ねえさまの名前なの」
困惑する少年を見ていたら、口から勝手に言葉が飛び出した。
「違うわ」
大声で姉が否定した。生まれて初めて聞く彼女のそんな声に、思わずびくりとする。
「ねえさま?」
「わたしたち一緒に生まれたんだもの、わたしの名前はあなたの名前よ」
並々ならぬ想いが言葉に篭もっていた。
自分を大事に想う姉の気持ちは理解できても、それでも弟は何かが納得出来ない。でもそれを上手く伝えられる気がしなくて口を噤む。
姉が「そうでしょう?」と腕を掴んでくる。
彼女が言うのならそうかもしれない。そうなのだろう。
否定する機会は今ここでしかない。けれどそんなこと、今まで一度だってしてこなかった。躊躇う必要なんてなかった。
閉じた世界で彼に問いかけてくる人なんていないも同然だったから。
「……それなら半分こにしたら」
「え?」
双子はすぐには理解できなかった。
「きみがアッシュ、あなたがレイ。合わせたら一個になる。どう?」
子供だましみたいなものだけれど、双子には革命的な提言だった。
弟に名が付いて喜ぶ姉の姿を見ていたら、変だとかどうとかなんて到底口に出せる雰囲気ではない。
弟はアッシュ、とついたばかりの名前を口の中で転がしてみる。
……いつかは馴染む日がくるのだろうか。
ままごとみたいな主従の儀をいつの間にか戻ってきたお目付役が黙って見つめていた。
※
彼女には許嫁がいた。
この国の辺境領主の息子で、見ればため息が洩れそうな美少年だと、彼女が暮らす王都でも有名だった。彼女自身もまた、他国で人の口に上るような美しく、それでいて控えめな少女であった。
少女は彼の妻になることを誰より夢見ていた。
少年の心の裡など露知らず、その日を待ち望み、やがて彼と結ばれた。
彼はといえば、長年自分が彼女を裏切っていることを自覚していた。穢れた身で彼女を抱くのを躊躇う気持ちと何も知らず無垢な彼女を汚し壊してやりたい衝動でいつも揺れていた。何とかその気持ちを隠し通して、ついに彼女と夫婦になった。
彼女の腹に子が宿る。
夫の勧めもあって彼女は実家に里帰りをすることにした。夫と離れるのは淋しいが、生まれてくる子のためだと言い聞かせた。
王都にある実家には、時々珍しい客がやってくる。
そのなかに、他国の魔法使いが身を寄せたときがあった。
魔法使いは彼女に一つ、一度きりの魔法を授けてくれた。
――逢いたい人のところへ一瞬で行ける魔法。
夫と離れて暮らす彼女には、堪え難い誘惑だった。逢いたい、ただそれだけを想って、彼女は魔法を使った。
だって夢にも思わなかったから。
夫が自分の留守に自分じゃない誰かと寝ているなんて。
ましてやそれが男だなんて。
彼女は夫の裏の顔を知らなかった。
正確には辺境領に課された役割を知らなかった。
それを知るのは王とその周囲にいる限られた者だけ。領民さえ欺かれている。
真実を明らかにすれば、課されたというより買って出たというべきある。
盗賊砦に巣くう者どもが時の王に忠誠を誓った折に、その役割を担うと彼らが宣言したのだ。
――我らはあなたに変わって目となり、耳となりましょう。
自ら担った役割を彼らは誇りに思っていた。役目のために子どもの倫理観を歪めることも是とする。
何のことはない、彼女の夫が男と寝ていたのは仕事の一環だった。けれど決して彼女には見せまいと思っていた、ひた隠しにしていた姿の一つでもあった。
涙を流し拒絶する妻を組み敷きながら、夫は己のことを、家業のことを語り、彼女にただ謝罪した。
愛しているから、知られたくなかったと。
「王都の方がきみが安全だと思った。腹の子もろともきみを害さんとたくらむやつが現れとも限らない」
そういう危ない橋を渡っているのだと重ねた上で、
「告げた以上、もうきみをほかへはやれない。赦してくれ」
悲愴な顔の夫に、彼女の心は歓喜の悲鳴をあげた。触れれば壊してしまいそうと夫が思い続けてきた彼女はもうそこにはいなかった。
――ああ、ずっといっしょにいられるんだ。
許嫁だった頃からずっと、隣にいても一枚壁を隔てているようなもどかしさがあった。壊れ物を扱うような手つきをもどかしく思い、やっと一つに結ばれた日は天に召されるかと思うくらい嬉しかった。それでも彼との間には隔てる何かがあった。
だけどそれが何だったか今日やっとわかった。
――しょうがないよね。
あなたがわたしじゃない誰かと寝てるなんて吐きそうなくらい嫌だけど死にたくなるくらい嫌だけど、絶対赦したくないけれど、我慢して、我慢して、目を瞑りましょう。
――だからわたしをはなさないで。
彼女は腹を撫で、子に囁く。
「あなたは必ず生まれてくるのよ。わたしとあの人を繋ぐために」
きっと可愛らしい子よ、だってあの人とわたしの子どもだもの。
そうして二人の間に生まれた子どもは天使のような、実に愛くるしい姿をしていた。
彼女は生まれた我が子を周囲が呆れるほど溺愛した。夫が仕事でなかなか邸に戻ってこないのもあって、その寂しさやらをぶつけるように子どもを愛した。
子どももまた、母の愛を疑うことなく受け入れた。
もうすぐ六歳となる、ある日のこと。
周囲の目をかいくぐり、してやったりとこっそり母の部屋を訪れた子どもは、そこに飾ってる花瓶に目をとめた。
見たことのない花が飾ってる。
部屋の主である母親はどこにいるのか留守のようだ。
好奇心に駆られ、花瓶のそばまでいくと手を伸ばす。彼の背丈よりいくらか高所にある花瓶。いけないことをしているような緊張感があった。
一輪、この手に取りたい。それだけだった。爪先立ち足がぷるぷる震える。
あ、と思った時には重心が傾いていた。
ちょうど戻ってきた母親が彼の名を叫ぶのが聞こえたが返事なんてできるはずもない。花瓶を巻き込んで彼は床に倒れた。耳の響くのは花瓶の割れる音か、それとも悲鳴か。
心臓がばくばくと逸る。
ばたばたと駆け寄る複数の足音。
何が起こっているのか分からず呆然としていると母親の側付きの一人が彼を抱え起こした。
倒れた拍子に割れた花瓶が、彼の真白い細腕を抉っていた。滴る朱色に母の顔は蒼白で、子どもは堪らず「かあさま」と涙声で呼んでいた。
母親の泣きそうな顔を見たら、我慢しなくちゃと思う。
いたい。ううん、だいじょうぶ。だいじょうぶだからかあさま、なかないで。ね、ぼくはだいじょうぶだから。
そんな想いをこめて「かあさま」と呼ぶ。
子どもを抱きしめようとした母の目線がついとよそへ逸れた。
「かあさま?」
母の目線の先を探す。
行き着いたのは流した血にまみれた自分の腕。そこで彼は信じられないものを見た。
ぱっくりと裂けた傷口の肉が盛り上がり癒着するさまを。
母は我が子の身に起こったことに、白目を剥いて卒倒した。
「かあさま」
そろりと呼びかけると、寝台で横たわる彼女がようやっと自分を見てくれた。
嬉しくなってもう一度呼びかけようとしたところで、
「だあれ? わたしのこどもはまだうまれていないはずだけれど」
息が止まった。
かあさま、と呼ぶ声は音にならず喉の奥へ消える。
平らな腹を、少女の顔でさする彼女。
目の前の、幼い時分の彼女とよく似た誰かが彼女にはどうしても分からない。
さあ、だれかしら。
それよりあのひとはやく帰ってこないかしら――。
※
ウィルのお目付役たる青年が実質アッシュたちの教育係であった。
言葉使い、作法、この国の歴史――双子は従者となるための諸々を、青年を通して学んだ。
ウィルはアッシュらと同じ時間を過ごすこともあるが、彼だけに用立てられた時間割があるようで、長く姿を見せないと思ったら目元を赤く腫らして戻ってくることがよくあった。何をしているのかはわからないが、どうやら苦行をこなしていることだけは疑いようがない。
けれどウィルや青年が何も言わないから、双子は何が辛いのか主人に面と向かって尋ねることはできなかった。
実際のところ、アッシュはまだそこまで主人に関心を持っていなかったから、事実認識として辛いことをやっているんだろうなくらいにしか捉えていなかった。辛いことは我慢することだと考えていたからだ。
まだこの頃のアッシュの世界は、姉とそうじゃないもの、の大きな括りで構成された未熟なものだった。ウィルがそうじゃないものでなくなるのはもっと先である。
双子が彼の従者となってから一年と半月は過ぎた頃。
青年が初めて、邸の地下へと二人を案内した。
薄暗い通路にかつんかつんと足音が響く。何かに引っ張られて原因を探れば、レイがアッシュの服の端を掴んだからだった。アッシュは無言で姉に手を差し出した。決まり悪そうにレイが手を握ってくる。
階段を下りきり、細い廊下の突き当たり、唯一の扉の前で青年が足を止めた。石造りの周囲と違って扉は鉄製のようだった。
「開けますが、決して声を出さないように」
神妙な顔で双子が頷くと、青年が扉をそっと、少しだけ開けた。そこから覗けと、目だけで促してくる。
開いた瞬間から嫌な臭いが流れ込んできていた。
嫌だとも言えず、双子は恐る恐る中を覗き込む。
至極真剣な表情の大人達が何かを取り囲んでいた。その手に握られてているのは形は違えど先が鋭利な物体で。いくつかは先から雫を滴らせている。
ぴちゃんぴちゃんと床下に雫の滴る音。
「何分経った?」
「二分だ」
「肉が盛り返してきた」
「呼吸を始めたぞ」
「五分経過」
アッシュは横目で姉の状態を見やり、まずいな、と今にも悲鳴をあげそうなその口を両手で塞いだ。青年に叱られたくない一心だった。
秘密を閉ざすように、静かに扉が閉められる。
「……あれは何かの儀式ですか?」
最初に思ったのはそれだった。
「違います。あれは実験です」
そう言った青年の口調はいつもと変わらなかった。
アッシュの手を握りしめるレイの手はずっと震えている。
「どこから説明しましょうか」
あなたたちの主人は呪われているのです――青年は真面目くさった顔でそう語り出した。
「あの方は何度刺して、焼いて、くびろうとも必ず息を吹き返す。奇特な身体なのです。生まれた時はそうではなかったようなのですが。先ほどあなたたちに見せたあれは、致傷に応じた回復時間を計る実験です。あなた方の主人は普通の人間でないと言うことをよく肝に銘じておいてください」
魔法のない世界には呪いがあるらしい。
現実逃避のようにアッシュはそんなことを思った。
血だまりに伏していたのはウィルだった。顔はよく見えなかったけれど、青年もああ言っていたし、やはりあれはウィルなのだ。
目元が赤く腫れているときは実験を終えた後なのだろう。
――今日のご飯はどうだった、覚えることがいっぱいだろう、今日は何を勉強した?
にこにこ笑って、日々のありようを事細かに知りたがり訊ねてくるウィル。はっきり言ってこれまで双子の周囲にはいなかった種類の人間で、だから二人はまだまだ戸惑う事の方が多い。それでも彼は嫌な顔一つしない。
アッシュは初めて彼に同情した。
彼もアッシュと同じで、耐える側なのだ。
拒むことはできない。権利がない。
彼を真に助けられる人間はこの邸にいないのだ。
お目付役といえば聞こえがよいが要は監視。
さらに領主は息子に従者という重石をくくりつけた。
「ねえ、アッシュ」
それはいつだったか。
遠くを見つめてウィルが微かに洟を啜って、静かな声で言った。頬には涙を拭った痕がある。
庭の木に寄りかかって座っている主人を見つけたアッシュが近づくと、彼は座るようにと手で促した。
「なんですか、主人」
「ねえ、きみがここへ来てから僕は、きみが笑ったり泣いたりするのを見たことないように思うんだ」
何をいきなりと思ったが、表情の乏しいアッシュの顔はウィルにはいつもと変わらぬように見えただろう。
「そういうのは必要ないと思って全部捨てました」
「捨てた? どうやって」
そんなのできるわけがない、とウィルの顔には書いてある。
しかし本当のことだ。
「そういうのは、ねえさ――レイがやればいいと思ったから、全部捨てました」
やめてしまった、というのが正しいかもしれない。
だって大人達はアッシュが泣いたりする方が楽しいみたいだったから。そうすると、痛いことや苦しいがどんどん加速するのだ。
それに自分は姉のためにあるわけだし、泣いたり笑ったりはレイがやればいいのだ。
「…………そっか」
アッシュの言葉に何か感じるものでもあったか、暗闇に光明でも見出したかのような晴れ晴れとした顔でウィルは「ありがとう」と言ってきた。
「……はあ、どうも」
何故礼を言われたのか、二十歳になってもアッシュは未だ分からないままだ。
いつからかウィルの目元が腫れている頻度が減った。
隠れて泣いている姿も見かけなくなった。
空が白みつつある。
最後の交代で起きてきたアッシュは焚き火に照らされた主人の横顔に思う。
生理的に流す以外で主人の涙を最後に見たのはいつだっただろう。いつからかウィルは自分達にも素の顔を隠すようになってしまった。
「なんだよ? 顔に何かついてるならさっさと取ってくれないか。確かに僕はいい顔だけどね、眺めたからって薬にもならないぞ」
「……ぼんやりしていただけです」
「……あっそ。じゃ、あとよろしく」
火の始末を従者に押しつけて、馬車の荷台へと向かう主人の背をアッシュは黙って見送る。この十年の間にウィルの口調もだいぶん砕けたものに変わってしまった。
出会った日の彼を懐かしいと思いこそすれ、だからといって現在の彼が嫌なわけではない。
これまでの軌跡も含めたウィルという一人の人間にアッシュは惹かれている。きっかけなどという明確なものは、あっただろうか。
気付いた時にはもう、姉と同じかそれ以上の存在になっていたのだ。
姉に対する想いとはまた異なる感情に付く名をアッシュは識らない。説明したいとも思わない。誰にも知られたくないと思う。
扱いの難しい大事なもの。だから胸に潜めておくのだ。