水の流れる音に混じって聞こえる嘔吐く声に、レイは扉を叩くのを躊躇する。
誰も彼もが夢の中にいるような時間。そんな夜更けに彼女の主人は風呂に入っている。贅沢な時間であるはずなのに、中から聞こえるのは苦悶の声だ。
ウィルたちは国外を点々とする生活を送っているが、時々は拠点である自国へ戻ってくる。
久々に邸に戻ってきて任務を言い渡されるでもなくのびのびしていられたのは三日目までだった。
「出かけてくる」
四日目の朝、食事の席で気乗りしない顔でウィルが言った。
「どこへです」
すかさずアッシュが問う。
従者であれば主人の行き先を把握しようと努めるのは当然のこと。けれどそれだけで訊いたわけではないだろう、きっと本人は気付いていないだろうが。幼少より相変わらず表情が乏しい弟を横目に見ながら姉はそう思った。
ウィルは「王都」とだけ答えた。確かに答えだ。でもそれだけかと、もっと具体的な答え答えを欲していてもウィルの従者は「かしこまりました」と肯く。主人が詮索されたがっていないと理解しているからだ。ああまた碌でもないところだと識っているからだ。
個人的な想いには蓋をする。
辺境領から王都まではかなりの距離がある。
馬車では日が掛かるから、急ぐときには王都の任務用拠点に魔法でひとっ飛びしてしまう。
今回ウィルはこれを使って出かけていった。
これを使えば時間短縮はもちろん、誰かを伴わなくていいからだ。
転移の魔法自体は複数人の移送に対応している。
ただウィルが、王都なら護衛として従者を連れて行く必要はないと考えている。仕事柄、囮を買って出て襲われている彼だが、活躍の機会が無いだけでそれなりの護身術は使いこなせる。
辺境領では幽霊であるから大胆なことができないが、逆に幽霊だからこそ王都では好きなことが出来る、多少面が割れようとまあ何とかなる――ウィルは腹の内はそんな感じであった。
そんなわけでウィルが出かけていったのは昼食時をいくらか過ぎた頃だった。
行ってらっしゃい、お気を付けてと主人を送り出しても従者は暇を得るわけではない。
掃除に洗濯、邸の修繕など……それをたった二人でやる。そんなに広い邸ではないから何とかなる。
ウィルの生活の基盤がまだこの邸にあった頃は、邸の狭さに見合っただけの使用人がいた。今は本邸の古株が一人、留守の間に定期的に見に来てくれ、あとは庭師が本邸のついでに手入れしてくれるおかげでなんとか荒れずに済んでいる。
本当に困ったときは魔法の出番だ。
困ってはいなくとも楽をしたいときも有効だ。
例えば洗濯。
レイが洗濯カゴに目配せすると、するするとひとりでに敷布が広がって洗濯紐に掛かっていく。レイはそれをピンチで留めていくだけでいい。
見えるところにアッシュがいなくとも、彼女が「こうしたい」と思えば難なく魔法は使える。
レイは青空を透かすように右手をかざした。陽を受けて温もり出す手指に想いを馳せる。
『とらないよ』
そう言われたときの熱さは未だに忘れられない。
面と向かって弟の存在を仄めかした者はいなかったが、物心つかない頃からレイはずっと己の両手が空っぽで心許ない気持ちでいた。
この手には何か掴むはずだったものがある。
その想いひとつでやっと弟を捜し当てたときの気持ちはきっと誰にも分かるまいと思っている。
あるべきものがあるべき場所に当てはまった感動。
あなたはわたし。わたしはあなただ。
あなたがいないとわたしは息が吸えない。
だってわたしは――魔法が使えないから。
ずっとずっと怖かった。息苦しかった。いつ大人たちにばれてしまうのかと気が気でなかった。
どこにいるかもわからない自分に代わり、魔法を使って助けてくれていた弟。
本当に大事にされるべきは彼のはずなのに、家のしきたりせいで、自分がいるせいで虐げられている。
わかっていてもあの家でレイは無力だった。
だからあの邸から弟と一緒に連れ出して貰えたことには本当に感謝している。影の薄い父親の企みと知ったときにはとても驚いたものだ。あんなおかしな邸にあっても、父はちゃんと自分達を愛してくれていたのだ。
でもそんな父の顔も声も思い出せないのだから、薄情なものであるとレイは自分でも思う。
それはいささか風の強い日だった。
窓硝子がかたかたと鳴いていた。
「これを部屋に置いてきなさい」
ウィルのお目付役は水の入ったグラスを一つレイの手にに握らせて、おかしなことを言った。
「あの方がなんと言おうとも部屋の中に置いてくるのですよ」
レイ達がこの小さな邸に来て三年が経っていた。
ここへきたときよりも背が伸び、髪も伸びて、女性らしい丸みが少々出てきたことが恥ずかしくも嬉しかったり、弟と目線が合わなくなって戸惑う。そんな日々を送っていた。
お目付役の教えはそれなりに厳しかったが、作法に関してはこちらに来る前の躾のおかげで困ることはなかった。
「……わかりました」
おかしなことを言うと思っても、レイに断る選択肢は与えられていない。
レイの主人はウィルだったけれど、彼にはお目付役の青年がついていた。お目付役はレイ達の双子の教育係でもあった。
立場は青年の方がまだ上だった。
意見など出来ようはずがなく、頼まれた以上使命は果たさねばと、中身を零してなるものかと慎重な足取りで主人の部屋へ向かう。
ここへ来た当初は何をさせられるのもアッシュと二人一緒が多かったが、このごろは時間割が別々に用立てられていて隣にいないことはよくあった。
「……だれもこない」
面白いくらい廊下で人とすれ違わないことに、水を零す危険が減ったと無邪気に喜んでいたが本当は人払いされていただけであった。
この邸でレイたちはまだまだ識らないことの方が多かった。
主人とはゆうべ食事の時に顔を合わせたきりだと考える。
従者という立場を与えられているけれどウィルの時間割を双子は識らない。会おうと思っても簡単に会えるわけではなかった。それでもだいたい食事の席に主人は顔を出した。
主従が同じ食卓を囲むなんて変な話だが、ウィルがそうしたいと望むのでそうなっている。お目付役も黙ってウィルの好きにさせているがその本心がどこにあるかレイは知らないし、青年のことはあまり知りたいとも思っていない。
レイは主人を、ウィルという少年を少々苦手に思っていた。
血まみれの地下室を覗いてからその想いは強まった。でもそれは死んでは蘇る彼が不気味だからではなく、何度も殺されるというレイの想像力では計り知れない辛い目に遭いながらも自分達に笑いかけてくる彼の神経が理解できなかったからだ。
レイだって泣く日がある。泣きたい日がある。だから、笑顔のウィルの目元が赤く腫れている理由くらい察せられる。
でもレイは泣いている主人を見たことがない。不平を漏らすところを見たことがない。いつだって彼女の前にいるのは泣いた後の彼なのだ。
一緒に生活しながら弱音を吐く彼を見たことがなかった。
まるで弟みたいだと思う一方、そういえばウィルは自分達よりずっと年上だったと気付く。見た目のせいで忘れがちだが、本当は七つも離れている。
「……ちっともそう見えないけど」
レイがウィルを苦手に思う理由の一つが、彼が年上の異性であることだ。
かつて暮らした邸では異性と接する機会は極端に少なかった。異性の存在が幽霊か何かのように影が薄く、同じ邸にいながら遭遇すること事態、稀であった。通わされた学校も女学校という徹底ぶり。
同じ年頃の異性と言えば弟くらいなもで、だが参考にならないことは重々承知している。
主人の部屋の前でレイは足を止めた。
今日は何を勉強したの?
ねえ、何が面白かった? 何がおいしかった?
今度はあそこへ行ってみようか、夜になると星が掴めそうなくらい近くに感じられるんだよ。ほらほら、ちゃんとおいしいって言って、ごちそうさまもね。うんうん、上手く書けているじゃないか、待ってそこの綴りは。あ、そこ躓きやすいから気を付けて――。
顔を見ればにこにこわらって、自分達の日々の様子を知りたがってあれこれ訊いてきて。食事の席で何くれと世話を焼きたがる。
ここでの生活はどうだ不足はないかと折にふれ、訊いてくる。
母親だってそんなに細々と訊いてはこなかった自信がレイにはある。
お節介と切り捨てるには何か病的な偏執さをウィルからは感じる。
でも彼はレイとアッシュを分けない。二人に同じ事を問いかけ、同じように心配してくる。時間割を決めるのはお目付役であって、二人が一緒にいないのはウィルの差配ではないことを双子は理解している。
「ウィル、いますか」
こんこん、と扉を叩く。敬称がないのは本人がつけなくていいと言ったからだ。お目付役からはそれでも状況は鑑みろと言われている。
待ってみるが返事はない。
レイは扉と、手の中のグラスを交互に見る。
部屋の中に置いてきなさいとお目付役の彼からは言われている。引き返すことは許されていない。
……これ、そんなに大事なものなんだろうか。
レイにはただの水にしか見えないが。
息を吸ってもう一度、扉を叩く。
「ウィル、入りますよ?」
返事はやっぱりない。留守なのだろうか。
そろっと扉の把手に手を掛ければ、がちゃりと音を立てる。
鍵がかかっていない。
把手が動いた音が耳の中でやけに大きく響いて聞こえ、どきりとする。
その動揺を狙ったかのように、部屋の中で何か重いものがどさりと落ちるか倒れるかした。
「ウィル?」
慌てて扉を開け中に足を踏みいれば、部屋の真ん中に敷布の塊が蹲っていた。起き上がろうと足掻く手指が敷布の隙間から覗いていなければ何ごとだと思っただろう。
レイは単純に、ウィルがベッドから起き上がろうとして敷布を被ったまま転げたのだ、と考えた。
「ごめんなさい、具合悪いの知らなくて。返事がなかったものだから――」
だからこの水か、とレイは合点がいった。それでも青年の説明は奇妙ではあったが、とにかくと、もぞもぞ敷布から抜け出せず身じろぎする主人のもとへ近づいた。
正面と思われるところへ片膝をつく。
敷布の中で主人が頭をもたげた。布の隙間から覗く双眸と目が合う。
その時になってやっと、ウィルの異常な呼吸に気付いた。はあはあと荒い息を吐いている。吸っても吸っても足りないみたいに呼吸を繰り返している。ただ具合が悪いにしてはどうにもおかしい気がした。
誰か呼びに行くべきか。具合のほどを訊ねようと開きかけた口はでも、言葉の出し方を忘れてしまっていた。
真っ赤に充血したウィルの双眸に怖気を感じた。身の危険をなぜか主人から感じて、なのに立ち上がることを躊躇う。
背を向けたらまずいと本能が告げていた。
「……わるいけど。レイ。いますぐでていって」
懇願する声はいつも以上に掠れ、上擦っていた。
「あ、あの」
大丈夫なの、と問うとした声はウィルに遮られた。
「……それ、なに」
「え?」
「それ」
余裕がないのか、ウィルは短い単語で喋ろうとする。状況に混乱するばかりのレイは、彼の「それ」が指すものがわからなかった。
ややして、じっと不気味な視線が自分の手に注がれているのに気付く。
「これ、ですか」
こんな状況でまだ手に持っていた自分に驚きつつ、グラスに視線を向ける。微かな声で「そう」とだけ返事があった。
「部屋に置いてきなさいってあのひとが――」
ちっ、と舌打ちが聞こえた。
レイはきょとんと主人を見返した。今のは彼がやったのだろうか。そう耳を疑ってしまうくらい、ウィルにはあるまじき行為である。
「……レイ。わるいけど……言うとおりにしてくれるかな」
「は、はい」
「それを置いて、いますぐ部屋を出て。あれがなにを言ってきても……明日の朝まで僕には、近づかないで……いいね?」
血走った目で確認をとられる。
鬼気迫るものを感じて、レイは玩具みたいにひたすらに肯いた。
早速立ち上がり、ベッド脇の側机にグラスを置く。そっと置いたつもりが波打った表面から一滴撥ねて机上に落ちる。思わず「あ」と声を上げてしまった。
それに反応してウィルがこっちを向くものだから、
「な、なんでもないです」
咄嗟に釈明するも、ウィルは何も言いはしなかった。その辺も普段の彼らしくはなかった。いつもの彼ならきっと「どうしたの」と訊いてきただろう。
どうしても彼に背を向けるのが怖くて、ちらちら振り返って距離を測りながら、後ろ足で扉を目指す。
伸ばした手がやっと把手に触れたところでくぐもった声が「レイ」と呼んだ。
「……ごめん、やっぱりそこにいて」
「ウィル?」
「でも僕には近づかないで……」
強い口調で近づくなと懇願され、レイはびくりと肩を震わせる。
「そこで歌でもうたっていてくれないか……なんならアッシュとの想い出を語るのでもいいよ……少しのあいだ、お願いだ」
急転する主張にレイはついていけなくて、頭を悩ませる。
訳が分からなくても、主人の願いにはなるべく応えるのが従者だ。そう教えられた。
つまり、ウィルに近寄らなければ、この扉の前でなら何をしてもいい。そういう解釈で合っているだろうか。
こんなふうに一対一でいる状況は初めてかもしれないと気付く。用事でも無い限り、二人きりで話したいなんてこと、レイは考えたこともなかった。
主人だけれど、それまでの存在。レイの中で優先されるのはまだ弟の方である。
主人の異様な雰囲気に飲み込まれて、きっと言うことはないと思った言葉が勝手に口から飛び出した。
「……わたし、あなたが苦手です」
ウィルからは荒い息づかいしか聞こえてこない。ただその視線はひたとレイに据えられている。値踏みするみたいな嫌な目だと思った。彼らしくないと思った。
「今だって何で苦しんでいるのかさっぱりだし。主人なんだから従者に説明くらいあるべきです」
「……それは……ごめん。言っても不快になるだけだと……思ったから」
「わたし、主人というものはもっと理不尽で我が儘で尊大なものだって思っていました」
「……うん、がんばる」
「そうして欲しいとは言ってませんけど」
そこでぴたっと返事が返らなくなった。
「……ウィル?」
彼は敷布を頑なに握りしめ、目を閉じていた。項垂れて、深々と息をはく。
もう一度そろりと呼びかけたら、しばらくして微かに笑う気配があった。
「……レイ」
「はい?」
「喉が渇いてもその水は飲んじゃ駄目だから、それには薬が入ってる――」
ひと息にそういうと纏った敷布の中で蹲っていたウィルが上半身を起こし、顔が露わになる。真っ赤な顔は汗まみれで、額に張り付いた前髪を強引にかき分け「熱い」と彼は息を吐く。しかしなんだかすっきりして見えた。
ベッドに凭れかかった彼の呼吸は荒かったが、おそらく少しばかり具合はマシになったのだろう。レイに注意を促した口調は、彼女がこの部屋に入ってきたときより滑らかになっていた。
「薬?」
「僕の身体にどれくらい効くか、の実験だよ……ちょっとこっちきて」
ちょいちょいと手招きする彼を、レイは訝しんだ。さっき近づくなと言ったのは他ならぬ彼自身なのだ。
「だいじょうぶ、もうだいじょうぶだから」
笑っているが、なんだかそれは疲れ乾いて見える。
「……」
そろそろと近寄っていけば、おかしそうに笑われた。思わずむっと口先を尖らせる。
「ずっとね、言おうと思っていたんだけどさ、自分でもこんな時に言うのはどうかなと思ってはいるんだけどね」
ちょっと手を貸してと言われ、おずおずと右手を差し出す。その手をウィルが左手で掴み引っ張るものだから、レイはその場で膝を付くはめになった。
目線を合わせて、ウィルが言う。
「心配しないでいいよ、きみからアッシュはとらないよ」
とらないから、と重ねて口にしたウィルの手は尋常じゃないくらい熱くて、レイは戦慄した。
どうしてこんな熱があるのに、なのに彼は何を言っているのだ。
熱に浮かされているのは間違いない。
どうかしている。そう、茶化せたらどんなに良かったか。
よりによってこんな時なのに、レイが欲しくて欲しくてやまない言葉をくれるなんて。
こわい。
もうずっと、レイはウィルが怖かった。
いつか大事な弟が取られるんじゃないかと思っていた。気を許すなんてありえなかった。
だってアッシュがいてこそのレイだから。
とられてしまったらどうしていいのか分からない。
でもそれは魔法が当たり前の国にいればこそで。
――ここは魔法が当たり前じゃない国。
この国では、少なくともこの邸の中では、レイはレイ、アッシュはアッシュとして呼吸を赦される。
レイが魔法が使えないと知っているだろうに、ウィルは使ってみろだなんて意地悪を言わないし、無理難題をアッシュにふっかけてレイの側から追い払うような鬼畜なこともしない。
今まで出会ったことのない種類の人間は、怖くて、苦手で。
それなのにどうしても嫌いにはなれなくて。
「……ほんとに、とらない?」
つんと鼻の奥に痛みがはしる。
「ああ、約束する」
だって、と。本当はそのあとにほんに小さな声で言葉が続いたが。
ぽろりと流した涙が契機となって号泣し、あまつそのまま眠りこけたレイの耳には届かない。
※
夜更けに戻ってきた主人の顔色は芳しくなかった。
呪いとやらは肉体的な損傷は回復しても、精神までは直してくれない。そればっかりはウィルが自力でなんとかするしかなかった。
ウィルは出迎えたアッシュを労いもせず「レイに水持ってこさせて」と言葉を投げつけ、足早に自室に引き籠もった。
だから言付かったレイはグラスを持って、浴室の扉の前に立っている。
いつぞや持っていたグラスは媚薬入りだったらしいが、これは正真正銘ただの水だ。
「ウィル、持って来たわよ」
ややして扉の隙間から腕だけが出される。白い手首に消え掛けの痕があってもいちいち動揺はしない。していては身が保たない。
はいと手渡せば、礼の一つも無く、再び扉は閉ざされる。
今日も薄汚い変態に抱かれてきたのだろう。本人が望まずとも、父親に命じられたら彼は拒めない。またそうすることでレイ達を守っていると信じ込んでいる。
ウィルは誰かに抱かれるたびに引き籠もるわけじゃない。おそらくいつもは蓋をして隠しているものが溢れかえったのだ。
鼻歌では到底誤魔化しきれない。
そんな時は、自覚があるのかしらないがアッシュを遠ざける傾向にある。
アッシュの方もそれを薄々気付いていて、レイに伝言しに来たとき、ちょっとふて腐れていた。姉だからこそ、顔に出なくとも分かった。
廊下を歩きながら、レイはとりとめもなく過去を思う。
『……ほんとに、とらない?』
どうしてあそこで確かめたりしたんだろう。
あの時は必死だったけれど、もう状況は違う。レイも、アッシュも子どもじゃない。
――もうあなたに守られるだけの存在ではないのだ。
あの子はアッシュで、わたしはレイだって、もうちゃんと理解できているから。
だからもう、ウィルだって律儀に約束なんか守らなくていいのだ。